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第23回 20年正月 [中巻]

「第23回 20年正月」 掲載’08年(H20年)1月22日号 (発売日 同年1月12日ころ)

最大の謎回

 全編が”愛國イロハカルタ”のみで構成される今回は、変化球を通り越して、もはや”魔球”の回である。 なにしろ、コミックス中巻を上から見ると、この回の部分だけが真っ黒な筋となって見える、本作品で最大の謎回だ。 のちの20年7月のすずの独白より、この回は正月に家族でかるた大会をやっていた時のことと明かされるが、実は本編で語られることのないサイドストーリーが散りばめられており、なかなか侮れないのだ。 そして...

イ 神風神話の始まり

 愛國かるたの絵柄は、オリジナルを踏襲したものと、この作品独自に描き下したものがある。 イの札は元寇(今は蒙古襲来と言われてるの?)によって神風神話が始まったことを示していて、絵柄はオリジナルとほぼ同じ。 フビライ・ハンのモンゴル帝国による我が国への本格侵略である”元寇”は、1274年の文永の役と1281年の弘安の役からなる。 いずれの戦いもモンゴル軍の圧倒的な武力に苦しめられたが、どちらも突如として発生した暴風雨がモンゴル軍を直撃し、結果 日本はモンゴル軍撃退に成功したと言われている。 これにより、日本は神に守られた国なので国難の時は必ず神風が吹くという、いわゆる神風神話が起こる。

 神風神話は戦中では、戦局の悪化した18年の歴史の授業から取り入れられるようになった。 ステレオタイプの戦時ものでは、「日本は神の国じゃ、いまに神風が吹いてアメリカをやっつけてくれる!」というようなセリフが必ず挿入されていた。 この作品では、神風は戦争が終わった後に皮肉として登場する。 また、同様に本作品では神風特攻隊の話も出て来ない。 ひねくれてるなぁ。

(H29年7月3日追記)

ホ 九軍神 あれ、もう一人は?

 ホの札はオリジナルとほぼ同じ図柄だが、オリジナルの桜の花びらが4弁なのに対し、本作では9軍神にちなんで9弁になっている。 9軍神とは作中の注釈にあるように、真珠湾攻撃の際、湾内に突入して未帰還となった特殊潜航艇「甲標的」の乗組員のことだ。

104.jpg

 江田島の第1述科学校の教育参考館横に置かれた特殊潜航艇(実際に真珠湾内に突入した本物)。 特殊潜航艇は船首に魚雷を縦に2本装備した二人乗りの小型潜水艦で、大型潜水艦に搭載されて移動し、敵地近くで分離して敵陣に突撃を仕掛ける、帰還率の極めて低い、ほぼ特攻兵器である。 真珠湾攻撃の際も、出撃した5艇はすべて未帰還となった。 ある艇は米軍に発見されて爆雷により沈没。 ある艇は浅い真珠湾内で座礁して身動きが取れなくなり自爆した。 

 ここで疑問。 5×2=10である。 出撃したのは10名のはずなのに、何故9軍神? 実は一人だけ生き残りがいたのである。 彼の名は酒巻和男(最終階級 少尉)。 彼の艇は出撃前にコンパスが故障していることが判明していたが、酒巻の強い希望で出撃を強行、いったんは湾内に突入成功したものの敵艦に発見されて退避。 コンパスが使えないことにより座礁を繰り返して航行不能になり、最終的に艇を自爆させることにした。 この脱出の際に酒巻は意識を失って海岸に打ち上げられ、太平洋戦争における日本人捕虜第1号となったのだ。

 米軍の宣伝放送であるヴォイス・オブ・アメリカ(VOA)により、彼の生存は日本に伝わっていたが、捕虜となることをよしとしない日本軍の方針により、彼の生存は極秘扱いとなった。 これが”9軍神”誕生の秘密である。 米軍の捕虜となった酒巻は自殺を何度か試みたようだが、最終的に生きる道を選択し、積極的にアメリカの文化を勉強したり、同じように捕虜となった日本兵の心のケアをしたりして、模範的捕虜となった。

 戦後、彼のことを知ったトヨタ自動車に請われて同社に入社、最終的にトヨタ・ド・ブラジルの社長になっている。 (トヨタさんにも話の分かる人がいたんですねぇ。) なお、酒巻は山崎豊子の絶筆である「約束の海」の登場人物のモデルにもなっている。 

ヘ 日本の南洋進出

 オリジナルでは南洋の現地の少年が日の丸を持っている図柄だが、本作では南洋の島々と日の丸になっている。

ル、ヲ、ワ、レ、ナ、ラ、ヤ、ユ、セ 久夫の生活

 本編ではほとんど登場しない久夫が、下関での生活に次第に馴染んでいき、友達を作り、活き活きと生活する様子が描かれる。 久夫が貯金をするのは戦費のためでなく、呉への汽車賃を貯めるためだろう。

(H29年10月6日追記)

 ブルーレイ見てて初めて気づいたのですが、黒村のおじいさん(?)、義足なんですね。 ということは、日露戦争あたりの傷痍軍人という裏設定があったんですね… お国のために戦っての名誉の負傷。 だから、(束の間の)平和に浮かれる”モガ”の径子のことは気に入らなかったのか... でも、戦災を経験した後の(自分が負傷するよりも辛い目に遭った)径子とはきっと戦友同士のような共感が芽生えてくるのでしょうね。

ヨ、タ だから青葉は出港しないって

 本作では遭難して鷺に助けられる水原が描かれているが、オリジナルでは ヨ=ふんどし少年、タ=お辞儀をする少女が描かれる。

ツ つぎの日本をになう若夫婦

 オリジナルは万歳している少年、本作では周作とすずの若夫婦。

ノ、オ 桃太郎

 この桃太郎のモデルは誰? オリジナルは典型的な絵本の桃太郎。

ク くゎ!

 鍬だ! お父さんの鍬がもうこんなところに出て来てる!

コ ク!ド!ク!ド!

 オリジナルは小学生が何かしゃべってる絵。 本作では径子さんのお説教。

エ 靖国神社

 オリジナルでは靖国神社の「大村益次郎像」と鳥居の一部しか映ってないが、本作では社殿とお参りする男女の姿が。 次回のお父ちゃん、お母ちゃんを暗示してるのか?

シ やはり出征してた森田のおじちゃん!

 オリジナルでは鉢巻きを締める体操着の女の子だが、本作では第1回で海苔の収穫を手伝うすずが。 ここにきてようやく、森田のおじちゃんが出征していることが明らかにされる。 森田のおじちゃんは30代半ばで働き盛りと思われるが、この年代の男は軒並み戦争へ連れて行かれてるのだ。 

ヱ 挺身ガールズ

 オリジナルは男二人だが、本作ではすみちゃんと同僚。

ヒ リン

 オリジナルは桃の枝と雛人形だが、本作ではリンが。 リンは”ロ”の札にも出演。

間違ってる札

 イロハカルタを一通り見まわすと、本作のある札に間違いがあるのに気付いた。 これを見つけた時は ちょっと身震いした。 おそらく作者は意図的に間違って描いている(正確に言うと”描いていない”)と思われる。 なぜなら、それは下巻のある重要なシーンに関わる内容だからだ。 私は、そのシーンの布石がどこかに隠されてないか探していたんだけれども、まさかこんな所に、こんな形で忍ばせてあるとは… ちなみに劇場版では、これを全く違う手法で表現している。 それは、私が最初に思いついたのと同じ表現での暗喩だった。(本作ではやってない) それは何かは、当該の回で。

 この回が掲載された次の号である’08年(H20年)2月5日号(同年1月22日ころ発売)は休載。 代わって、1月12日(ころ)にコミックス上巻が発売されている。

 1月20日、マリアナ方面軍総司令にカーチス・ルメイが任命される。 ルメイは着任すると早速、日本本土爆撃の手法を変えさせた。 これまでのB-29の爆撃は、日本機に迎撃される恐れの少ない高度1万メートル弱で行っていたものを都市の上空1500~3000メートルに変更させた。 この高度変更で上空のジェットストリームの影響が無くなったこと、投下する爆弾の拡散が少なくなったことにより爆撃精度は大幅に向上、爆弾がより高密度で地上に到達するため、特に焼夷弾の威力が大幅に増した。 地上の人々は文字通り炎のじゅうたん爆撃で逃げ道を完全に塞がれ、より多くの一般市民が犠牲になった。 ルメイの名は日本国民にも知れ渡り、”鬼畜ルメイ”として竹槍訓練の的にもなった。 

 そのルメイだが、39年12月に日本政府より勲一等旭日大綬章を授与された。 航空自衛隊の創設に貢献したからという理由である。 なお、勲一等の授与は天皇からの授与が通例であるが、ルメイの時は当時の航空幕僚長からの授与であった。


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